The Fairy of Darkness 外伝
〜Twin Birth-day〜
1)
…銀色に透ける幾筋もの流れ…
太陽光に似せられた人工照明の光を反射して、幻惑されそうな輝きを放つその髪を
《心ここに在らず》といった感じで無意識に払い除ける。
常に近寄り難い雰囲気をその身に纏う彼女に、声を掛ける者は無い。
…しかし、その神秘的とさえ言える容姿に気を惹かれる者は多かった。
ここ数日、彼女が何時もこの自然公園に足を運んでいる事は、この研究施設に所属
する人間なら誰でも知っている。…お蔭で、公園は常に無い盛況となっていた。
普段の彼女は、妹と二人で居住区画から離れた処に住んでいる。そして彼女自身が
他人との接触を避けている為、この施設に住み込んでいる人々でも彼女を直接見た
事の有る者は少なかった。…故に、公園での彼女の姿を《観に》来る者は跡を
絶たない。
常の彼女ならば、人の気配だけで其処を避けて行くのだが…今の彼女にそんな余裕は
無かった。…心の中にわだかまった悲しみに、どうする事も出来ずに煩悶するだけ…
《…ラピス…どうして…?》
周囲からは彼女の妹である『白桜の妖精』として、そして彼女自身にとっては実の妹
以上の存在として彼女に等しく知られる少女『ラピス・ラズリ』。その名を心に呟き
ながら彼女は…『白金の妖精』の二つ名を持つ『ホシノ・ルリ』は只、悲しみの淵に
沈むだけだった…
2)
「ラピス、ちょっといいですか…?」
そう言ったルリがラピスに近付いて行く。すると、何故か同じだけルリから離れる
様に動いたラピスが、
「…ナニ…?」
と答える。この二日程は、こんな遣り取りが続いていた。ラピスが明らかにルリを
避けているのだ。
《…どうしてでしょう…?》
ルリはその原因を、自分とラピスの生活に求めようとしたのだが…どうしてもそんな
出来事が思い浮かばない。しかし、ラピスに避けられ続ける事は彼女に烈しい苦痛を
強いた。…只でさえ不安定なルリの精神は、ラピスが傍に居ない事に過剰な反応を
示していた。
…そして…
「ラピス…!」
今度こそ理由を聞こうとして彼女がラピスの肩を掴んだその時…
「!…ダメ…!!」
…ルリは、ラピスに突き飛ばされていた…
「…ァ…ァア…!」
ラピスが悲鳴にも似た声を挙げる。彼女の顔は表情を刻まないが、ルリにはラピスが
彼女以上に驚いている様に思えた。
「…私が、悪いんです…いきなり、詰め寄ったりしたから…ごめんなさい…」
居たたまれなく為ったルリが、部屋を出る。…ラピスは追っては来なかった。
それから数日…ルリと顔を合わせる度に、何かに耐える様な雰囲気を醸し出しつつ
ラピスは離れて行く。そんな状態が続いていた。
部屋に居て、ラピスと顔を合わせるのが辛い…そんな状況が、ルリの公園通いを
続けさせている原因であった…
3)
「どうしたの、ホシノ・ルリ。」
涼しげな声が彼女の名を呼ぶ。…振り向いたルリの目前に、エリナが立っていた。
「エリナ、さん…」
ルリが小さく呟く。その余りにも寂しげな様子に、エリナは形の良い眉を寄せる。
「貴方の様子がおかしいというから来て見れば…どうしたのよ、一体?」
「…。」
ルリは答えない。エリナは《やっぱりね》といった感じで嘆息する。
「私なんかには相談する気にならないかも知れないけれど…私は貴方とラピスの
姉代わりのつもりなの。…何かあったら、言ってね…」
立ち去ろうとしたエリナの足が止まる。ルリの手が、エリナのスカートの裾をそっと
《添える》様な弱さで掴んでいたから…俯いたルリの傍らにしゃがみ、彼女の顔を覗き
込むエリナ。ゆっくりとそちらを向いたルリの顔には、涙が光っていた。
「…ルリ…?」
エリナは内心の驚愕を面に顕さない様に勤めた。彼女の知る『ホシノ・ルリ』は人に
弱さを見せるのを極端に嫌っていたから。思わず、エリナも彼女の事を『ルリ』とだけ
呼んでしまった。…相手と距離を置く為に、常にフル・ネームを使う様に心掛けている
彼女が。しかしルリが垣間見せた素直な表情の前に、そんな事は気にならなかった。
「…ぅ…」
顔を見せるのを嫌ったのか、ルリの頭がエリナの胸に飛び込んで来る。少しの間だけ
戸惑った彼女だが、その手は自然とルリを抱き寄せていた。
「泣きたかったら、泣きなさい…私で良かったら、ずっと付いていてあげるから…」
自分がこれほどに彼女達に深入りしていた事に、エリナは改めて驚いていた。しかし、
不思議とそれは嫌な事では無かった。本当に相手を気遣う者のみが持つ優しさでルリの
髪を撫で続けるエリナ。ルリの震えが少しづつ小さくなっていくのを、彼女は慈しみに
溢れる眼で見守っていた…
「…ありがとう、ございました…」
泣き腫らした瞳を伏せて、ルリが言う。エリナは黙ってルリの髪を直してやる。
「貴方がそんなに不安定になるのは久しぶりね…ラピスと、何かあったの?」
ルリの肩が揺れるのを、和えて見ない様にしながらエリナが問い掛ける。暫く沈黙を
保った後、ルリは自分がラピスに避けられているらしい事を話す。
「私は…ラピスに嫌われたのでしょうか…」
「…或は、何か貴方に知られたくない事があるか、ね。」
「?」
【よく判らない】といった顔のルリに、噛んで含める様に説明してやるエリナ。
「いい?貴方とラピスはとても強くリンクしている。機械的なサポート無しでも或る
程度の距離の中でなら、お互いの事が判る程に。」
「…はい。」
「だからラピスが貴方に隠し事をしようと思ったら、あの子は貴方から離れているしか
ないのよ。」
「!…でも、私に隠したい事が出来たというのは…やはり私が嫌われているとしか…」
ルリが其処まで言った時、エリナは《パチン》と彼女の両頬を挟み込んだ。
「いい、ホシノ・ルリ!貴方には、ミスマル・ユリカには恥ずかしくて言えない事とか
テンカワ・アキトには好きだから言いたくない事とかが無かったの!?」
「…!」
「それとも、ラピスの事が信じられなくなった!?」
「そんな事、ありません!!」
強い口調で言い切ったルリの顔を、エリナは微笑みを浮かべながら見ていた。
ルリの頬を挟んだまま、その額に軽く口付ける。《…ぁ…》とルリが眼を閉じる。
「…それで、いいわ。なら、ラピスの処へ行きなさい。近付けなくても、話ぐらいは
出来るでしょう?ラピスに聞いてみなさいな。《私が、嫌い?》ってね。」
「…はい!」
エリナが今まで見た事が無い程、晴々とした笑顔でルリが駆けて行く。
《…やれやれ。》
心の中で呟いたエリナが、立ち上がる。その時、彼女は周り中の視線が自分を見ている
事に気付く。『お堅い会長秘書』が優しく妖精を宥める図、というのは注目を集めるに
充分な光景だったらしい。周囲の好意的な視線に包まれながら、エリナはそそくさと
其処を立ち去った。
4)
部屋の前に立って、深呼吸しているルリ。…意を決して、中に入る。部屋の中には
明かりが点いて居らず、薄暗い。
「…ラピス?」
ルリが呟いた時、部屋の片隅に金色の光が二つ灯る。…それは、まるで猫の様な
ラピスの瞳。
「…ルリ…」
「…ラピス。貴方は、私の事が嫌いですか?」
回りくどい事を言うつもりはルリには無かった。只、ラピスの気持ちを知りたいだけ。
《ブンブンッ!》
音が聞こえてきそうな勢いで、ラピスが頭を振る。
「では、まだ…私を好きで居てくれるのですか…?」
「…ラピスはルリが好き。ルリはラピスのお姉ちゃん。ラピスはルリの妹で居たい…」
《こくこく》
と、頷きながらラピスが懸命に想いを言葉にする。普段、直接『ココロ』を伝えている
ラピスにとって、言葉で想いを伝える事はとても難しいのだ。
「ありがとう…貴方が私から離れているのは、何か訳があるのですね…?」
「…ウン。」
「…それは、ずっとですか…?」
「…ウウン。」
《ふるふる》
と、ラピスが首を振る。
「モウスグ…もうすぐ、判るよ…」
「…よかった…私はラピスと離れているのはもう嫌ですから…傍に、居たいんです…」
真直ぐにラピスの瞳を見詰めて言うルリに、ラピスは無表情なままで真っ赤になった。
5)
「イネス・フレサンジュ。…居ないの?」
エリナが医務室へ入っていくと、そこにイネスの姿は無かった。《仕様がないわね》と
いった表情で出て行こうとした彼女の前で突然、空気が歪む。
「!」
「…何?」
先程まで何も無かった筈の処に、イネス・フレサンジュが立っていた。呆気に執られて
いたエリナが、我に返る。
「…何よ、今のは?」
「少し、頼まれ物が有ったの。」
「…ボソン・ジャンプを私用に使うなって言ってるでしょう!」
「それで?何の用かしら?」
怒りを軽く空かされたエリナは、気をとり直して続ける。
「貴方、ラピスに変な事吹き込まなかった?」
「…?…何の事?」
「あの子はルリを避けてる。ラピスが自分の考えだけでそんな行動に出るとは
考えにくい以上、誰かが入れ知恵したとしか考えられないわ。」
「…その容疑者が、私って訳ね。御生憎様。私は関係無いわ。」
「…本当に?」
目一杯《疑ってます》といった視線を投げるエリナに、イネスが言う。
「私は、あの子達には研究対象としてしか接触しない様にしている。そうでないと、
辛くなるから…貴方もそうだと思っていたのだけれど…?」
「…私は…」
言葉に詰まるエリナ。確かに最初は彼女もそう考えていたのだ。しかし、今の彼女は
とてもそんな割り切った心境には遠かった。
「…いいんじゃ、無いの?」
「…え?」
「貴方があの子達を大事に想っているのは、今じゃここの所員は皆知ってるわよ。
《らしくない》と思ってたけど…今の貴方を見てる限りじゃ、結構《貴方らしい》
生き方なのかしらね?」
「…。」
少し赤くなるエリナ。イネスは見なかった様に続ける。
「ま、今回のは私じゃないわよ。…容疑者なら、他にも居るでしょう?」
「…貴方、知ってて黙ってるんじゃないでしょうね?」
「さぁ?どうかしらね?」
眼を細めチェシャ猫の様に笑うイネスに、エリナはそれ以上の追求をあきらめた。
「…お邪魔さま。」
「あ、ちょっと待って。どうせラピスにも会うんでしょう?頼まれて貰えない?」
「?…ラピスのだったの?」
「そう。ま、ついでだったから…」
「…そう。判ったわ。…でも、持ち歩ける物なの?」
「はい。これよ。」
イネスが渡した物は、小さな箱だった。奇麗なラッピングが施されている。
「ラピス・ラズリに直接渡してね。…間違ってもホシノ・ルリに渡しちゃ駄目。」
「?…!…そう…そうだったの。判ったわ。」
何事かを得心し、大切そうに箱を受け取るエリナ。イネスが《判ったみたいね》と
眼で言っている。
「…確かに、ラピスに届けるわ。」
嬉しそうに言って、部屋を出るエリナ。それを見送っていたイネスが呟く。
「…本当に、いいお姉さんだこと…」
6)
ラピスとルリの部屋の前に立ち、様子を伺うエリナ。どうやら、二人とも居るらしい。
「ラピス…?」
インターフォンで、ラピスに呼び掛けるエリナ。直ぐに応答がある。
【…ハイ…】
「…ホシノ・ルリは傍に居るの?」
ラピスが出た事にほっとしながら、エリナが問う。
【…ルリは…眠ってるョ…起こしちゃ、ダメ…】
「…そう、良かった…ラピス、貴方にお届物よ。…イネスからね。」
《シュッ》と音がして、ドアが開く。急いで出てきたラピスの頬が、上気している。
そんなラピスを暖かい眼で見ながら、エリナが小箱をそっと渡す。
「内緒…だものね…?」
「…ウン!」
《どうして知ってるの?》と眼を見開いていたラピスだが、箱を受け取ると大事そうに
持っている。すると、エリナがもう一つ大きめの箱を出す。『?』マークを浮かべる
ラピスに【これは私からよ。二人で食べなさい。】とウインクするエリナ。ラピスは
《コクリ》と頷く。
「ルリと、話したの?」
「ウン。ルリ、ラピスの事好きって言ってクレタヨ…」
「そう…良かったわね。」
言いながら、ラピスの頭を撫でるエリナ。ラピスは気持ちよさげに眼を閉じている。
「ラピスは、ルリの事が好き?」
「ダイスキ!!」
打てば響くといった返事に、エリナの微笑みが深くなる。
「私は、そろそろ行くわ。ルリによろしくね…」
「ウン。」
きびすを返し、立ち去ろうとしたエリナの腰にラピスが《ぽそっ》と掴まる。
「…ラピス…?」
「…アリガト。エリナも、好き。」
怪訝そうに振り向いたエリナに、ラピスが抱きついたままで言う。
「…どう致しまして…」
しゃがみ込んだエリナは、ラピスを《きゅっ》と抱き締める。
そして、今度こそ立ち去るエリナ。ラピスは戸口で《ばいばい》してくれた。
すっきりとした表情で通路を歩きながら、エリナが呟く。
「さて、真犯人を締め上げに行きましょうか。」
…エリナの眼が、妖しく光っていた…
7)
ルリが眼を覚ます…
ラピスに嫌われたと思い込んでいた間は、まともに寝る事も出来なかった彼女は、
ラピスの想いを知った途端に睡魔に襲われて今まで眠っていたのだった。
時計のウィンドウを開くと、【PM7:00】と表示されていた。
《いけない…夕ご飯にしないと。…ラピスがお腹を空かせてる…》
ラピスは、ルリと一緒でないと食事をしない。自分だけなら適当に済ませてしまう
彼女だが、ラピスと住むようになってからは食生活に気を配っていた。
重さを感じさせない動きで、ベッドの上に起き上がるルリ。彼女は衣服を身に付けて
眠るのを嫌う為、美しい裸身が顕になっている。
「…ウ…フゥ…」
猫科の獣を思わせる動作で、伸びをするルリ。首筋から胸を通って、腹部までの
美しいラインが顕になっている。それは彼女が滅多に見せない無防備な姿…
『コトリ…』
寝室の片隅で物音がする。ゆっくりとそちらを向くと、顔を上気させたラピスが身体を
丸めて座り込んでいた。
「…ラピス…?」
「…ァ…」
ルリに声を掛けられても、咄嗟に反応出来ないラピス。ルリが起きるのを今か今かと
待っていた彼女だったが…目覚めたばかりのルリの所作に、思わず見惚れていた為に
本来の目的を忘れてしまっていた。結局、黙ってルリを見つめ続けるラピス。
「…ぇ、と…」
幾ら相手がラピスであっても、裸身を《じっ》と見つめられると流石に気恥ずかしい
物があった。無意識に肩を竦め、両腕を太股の間に挟み込んで身体を小さくするルリ。
それは端で見ると、とても可愛らしい仕草だった。ますます、顔を赤くするラピス。
…暫くお互いに固まっていた二人だったが、一足先に我に返ったラピスが《あせあせ》
と動き出す。
「…用意出来てるから、キテネ。」
それだけ言うと、慌てて駆けて行くラピス。ドアを閉めると、居間へと急ぐ。
【ヤッパリ、ルリは綺麗だ…!】
ラピスにとって、美しい『姉』の姿はとても嬉しい事なのだ。
《このヒトが、ラピスのお姉さんナンダヨ!》と、喋って周りたいくらいに。
居間のテーブルの前に、《ぺたり》とお尻を降ろしてラピスが座っている。彼女が
椅子を嫌う為、ルリはわざわざテーブルを座卓タイプの物にしていた。
「ごめんなさい。待たせてしまって…」
室内用の軽い服を着たルリがやって来る。袖ぐりの大きく開いたワンピース一枚だけ。
こんな姿を見せるのも、ラピスの前でだけである。以前は部屋の中でも動きやすさを
重視したタイトなスペース・スーツだけだった。外出する時は、その上にマントを
羽織れば済む。しかしラピスが来てからは、今の様な服を着るようにしている。ルリが
何時も同じ様な服を着ていると、ラピスもそれを真似る事が判ったから。今もラピスは
ルリのと良く似た色違いのワンピース姿である。ルリのは薄い水色のもの。ラピスのは
淡い黄色。お揃いの好きなラピスだった。
「…エト、アノ…」
《すっく》と立ち上がったラピスが口篭もる。ルリは優しい眼でそんなラピスをじっと
見ている。暫くして、意を決した様にラピスが小箱を差し出す。
「…私に…?」
少し首を傾け、ルリが問う。《ウンウン》と、ラピスが頷く。そして、如何にも
“練習しました!”といった感じでラピスが言う。
『オタンジョウビ、オメデトウ…ルリ…!』
「…!」
ルリの動きが止まる。大きく眼を見開いたままで固まったルリに、ラピスが心配そうな
表情を向ける。
「…ゴメンナサイ、ルリ…ヤッパリ、怒ってるの…ラピスの事…?」
おずおずと近付いて来たラピスを、いきなりルリが抱き締める。
「…ルリ?」
「ちがっ…違いますよ、ラピス…わ、私…嬉しく…って、私は…!」
言葉にならない想いが吹き出して、泣きじゃくるルリ。どうやらルリが喜んでくれた
らしいと判ったラピスは、嬉しそうにルリに抱かれている。ルリは感動の余り、力を
抑えるのに苦労しながらラピスを抱き締めていた…ルリが落ち着くのを待って、漸く
テーブルの前に座る二人。其処には綺麗にデコレーションされたケーキが在った。
「…エリナが、くれたの。」
「…エリナさんが…」
ルリがケーキに添えて在ったカードを開く。其処には流れる様な筆致で、メッセージが
書いてあった。
【誕生日おめでとう、ホシノ・ルリ。ラピスのバース・デイは判らないから、二人共
同じ日にしたらどうでしょう?貴方たちは姉妹なんだから、ね?】
「エリナさん…」
「ナァニ?エリナ、何て書いてタノ?」
「今日は、貴方と私の誕生日にしましょうって…」
「…ラピスも?」
判らない、と顔に書いている様なラピス。ルリがラピスの瞳を覗き込みながら言う。
「ラピスの誕生日も、私とお揃いにしなさいって。…嫌ですか、ラピス?」
暫く止まっていたラピスが、ルリの瞳を見返して言う。
「ラピスも、ルリとおんなじ日!今日はラピスとルリの誕生日!!」
ラピスがルリにしがみ付く。ルリがラピスと一緒にくるくるとステップを踏む。
今日だけは色々な辛い事を忘れて、二人は踊り続ける…
…ラピスの小箱から出て来たのは、一本のルージュ。淡く上品な色彩のそれを引いた
ルリは、とても大人びて見える。…早速、頬にルリのリップ・マークを付けられて
ラピスはリンゴの様に真っ赤になるのだった…
8)
…同じ研究所内の、或る一室。其処に居座る、一人の男。
「フッフッフ。ラピス君は、ちゃんとルリ君にお祝いを言えたかな?当日までは秘密に
する様に言っておいたから…今ごろは、ルリ君は驚いている事だろうねぇ〜!」
「…えぇ、驚いていると思うわよ。」
突然背後から聞こえた声に、紛れも無い怒りの色を感じて男が青ざめる。
「や、やぁ、エリナ君。何を怒っているんだい?いい趣向だったでしょうに…」
「相手に拠ります!ラピスとルリが、どんなに悩んでいたか…全く貴方と来たら!!」
「お、落ち着き給え、エリナ君!頼む、冷静に話し合ってだな…!!」
…某企業の会長の悲鳴が、夜の研究所内に響き渡った…
to be continued, [Fairy of Darkness].