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想い・・・


作:仁塩ぴよこ




手にブーケを持ち、純白のウェディングドレスを纏っている私が、教会の赤い絨毯の上を歩いて行く。

バックにはパイプオルガンによる厳かな曲が流れ、参列者の祝福の眼差しが私へと注がれる。

そして、私の歩いて行く先に立っているあの人。

「よく似合ってるよ、ルリ」

あの人はいつもの様に、暖かい微笑みのままこう言ってくれる・・・。



これは夢?



そう、夢に決まっている。

決して叶う事がない私の夢。

あの人への気持ちに気付いてから、何度となく繰り返し見ている夢。

この夢はいつも同じ場面で眼が覚める。

あの人の手が私のベールを捲る。

あの人の顔が私の目の前に近付いてくる。

そして瞼を閉じる私。

次に瞼を開けた時、そこには目の前にある筈のあの人の顔はなく、厳かなパイプオルガンの調も聞こえてない。

いつもと同じ見慣れた天井だけが私の眼に映る。

聞こえてくるのは、静かな寝息が二つ。

夢から覚めた事にほっとして、夢から覚めた事を残念に思ってしまう。

いつも同じ繰り返し・・・。



ふと横を見ると、いつもの様に私の大切な人が静かに眠っている。

私の想い人と、その人が選んだ人。

二人とも私にとってかけがえの無い家族。

だから、夢見てはいけないと自分に言い聞かせる。

私の夢が叶う時、それは、私の大切な人が悲しむ結果をもたらしてしまう。

だから、諦めなくてはいけないと自分に言い聞かせる。

でも、また同じ夢を見る・・・。



何故この人が好きなの?



この人の寝顔を見ながら、何度同じ問い掛けを自分にしただろう。

「どうしてこの人なんだろう」と。

出会った時、この人は優しい瞳の中に悲しさを湛えていた。

戦いの中で、この人は沢山の悲しみを背負っていった。

他人の痛みを自分の事の様に一緒に傷付く人。

他人の喜びを自分の事の様に一緒に喜ぶ人。

それでいて、他人との間に線を引こうとする人。

そして、いつの間にか私の心に住み込んでしまった人・・・。



この人の嬉しそうな顔を見る度に、心が温かくなった。

この人の悲しそうな顔を見る度に、心に痛みを感じた。

この人の寂しそうな顔を見る度に、心に寂しさを憶えた・・・。



夢は夢なの?



そう、想いは口にしなければ夢で終われる。

私に人を想う気持ちを教えてくれた人。

その人を悲しませる様な事は、決してしてはいけない。

だから、私の想いは夢で終わらせなければいけない。

私の気持ちは忘れなければいけない。

何度も自分に言い聞かせてきた。

でも、私の心は一度憶えてしまった事を忘れてくれはしない・・・。



気持ちに正直になればいいのに?



私が正直になってしまったら、私の大切な家族を失うかもしれない。

それが恐い。

だから私は正直にはなれない。

この気持ちを伝えられたら、どんなに楽なのかもしれない。

でも出来ない。

伝えたときのこの人の顔が想像できるから・・・。

きっとこの人は、困った様な、そして悲しそうな顔をする。

私は、この人の悲しそうな顔は見たくない。

この人には、いつも優しい笑顔でいて欲しい。

この人には、いつも人を暖かく包み込んでいて欲しい。

それは私のささやかな願い。

だから、私は正直にはなれない・・・。



本当にいいの?



夢が夢のままで終わっても構わない。

それは私が自分で決めた事。

現実に叶わない事なら、夢の中で見るだけでいい。

夢の中なら、この人は私を見ていてくれる。

私の側に居てくれる。

だから、夢のままでいい。

私はこの人の幸せを壊したくない。

夢を現実にしようとしたら、それはこの人の幸せを壊す事になる。

そんな事、私には出来ない・・・。



そして私はまた夢を見る。

手にブーケを持ち、純白のウェディングドレスを纏っている私が、教会の赤い絨毯の上を歩いて行く。

バックにはパイプオルガンによる厳かな曲が流れ、参列者の祝福の眼差しが私へと注がれる。

そして、私の歩いて行く先に立っているあの人。

「よく似合ってるよ、ルリ」

あの人はいつもの様に、暖かい微笑みのままこう言ってくれる。

私だけにこう言ってくれる・・・。



人を想うという事。

それは悲しくて切ない・・・。



〜 Fin 〜


あとがき
皆さん、こんにちは。こちらのページでは初めてになりますが、仁塩ぴよこと申します。

以前、こちらのページとリンクを張らせて頂いたお礼をこめまして、今回SSを書かせて頂きました。(と言っても、今更と言う噂はありますが・・・)
ただ、どちらかと言うと、SSと言うよりポエムに近いかもしれない内容ですね。

さてさて、この話は、ルリがアキトとユリカの結婚を聞いた時に、何を感じたのかなという疑問が出発点になってます。
もし彼女がアキトに恋心を持っていたとしたら、それなりの葛藤があったのではないかと私は思っています。
それで、その時の彼女の気持ちが描ければと思ったのですが、いかがでしたでしょうか。

ご意見・ご感想などありましたら、ぴよこまでメールを下さいませ。

P.S  きちんとしたSSは、今度送らせて頂きます。

それでは。



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